外国人ビザ申請に新たな提出義務?――課税・納税・社保がルール化される省令改正のポイントと問題点

登場人物:

  • 横山先生(入管実務の専門家)
  • 教えてくん(ビザ制度に興味を持ち始めた一般の人)
教えてくん
教えてくん
横山先生~!今、「入管法の施行規則を一部改正する省令案」っていうのがパブリックコメント中って聞いたんですけど、何が変わるんですか?
ざっくり言うとね、今後、外国人が日本で中長期に滞在するためのビザ申請や更新、永住申請をする際に、課税証明書や納税証明書、社会保険の加入・納付状況の資料などが提出必須になるという改正です。
横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
えっ、今まではそういうのって、いらなかったんですか?課税証明書とか?
書類や申請のタイプによっては、ケースバイケースで提出が求められていましたが、共通ルールとして明確に義務として規定されていなかったんです。それが今回、ほとんどの在留資格に対して、ルールとして明文化されたわけです。
横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
「ほとんどの在留資格」って、どこまで広がるんですか?
例えばですね、

  • 教授、技術・人文知識・国際業務、経営・管理
  • 特定技能、技能実習
  • 留学、文化活動
  • 永住ビザ など…

外交、公用、短期滞在を除くほとんどのカテゴリーが対象になっています。

横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
具体的に、どういう申請で変わるんですか?
じゃあ、実務でよくある2つの申請を例に説明しましょう。
横山先生
横山先生
まずは、永住許可の申請(出入国管理及び難民認定法施行規則(昭和五十六年法務省令第五十四号)第22条より)。

これまで必要だった書類:

1. 素行が善良であることを証する書類

2. 独立の生計を営める資産や技能の証明

3. 身元保証人の保証書

これに加えて、現時点では、ガイドラインに基づいて、すでに課税証明書や社会保険の納付状況を求められていました。

でも今回の改正で「明文化」されます:

4. 年間の収入に関する文書

5. 課税・納税に関する文書

6. 社会保険の加入・納付状況の文書

横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
じゃあ永住はもともと結構厳しかったんですね?
そうです。永住申請も、以前は年金未加入でも申請できたり、とてもルーズな時代もあったんですが、近年厳しくなってきました。現在問題となっているのはそれ以外のビザ申請です。

たとえば「技術・人文知識・国際業務」ビザへの在留資格変更では、これまでは以下のような書類だけで足りました:

従来の必要書類:

  1. 会社の登記事項証明書と損益計算書の写し

  2. 事業内容がわかる資料

  3. 卒業証明書や職歴証明

  4. 仕事内容・雇用条件などの証明

今回追加される書類:

  1. 年間の収入に関する文書

  2. 課税・納税・社会保険関連の書類

そして、永住ビザの申請の時とは異なり、「技術・人文知識・国際業務」ビザへの変更などの場面では、これまで課税証明書すら求められないケースも多かったのが実情です。社会保険に至っては、実質ノーチェックだったと言っても過言ではなかったかもしれません。

横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
えっ、じゃあ、働いてても社会保険に入ってない人もいたってこと?
はい。たとえば、会社が保険加入義務を果たしていなかったり、本人が国保にも未加入だったりというケースも現実にはありました。チェック体制がないのですから、永住を申請しない限り、入管に指摘されることもなかったというのが正直なところです。

社会保険の加入歴は、扶養家族のためのビザを申請するときや、永住申請の時に初めてチェックされるのが実情でした。永住申請をしないのであれば、事実上社会保険に入らずに、日本にずっと居られたというのは、大きな問題でした。

横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
でも、今度からはそれが全部チェックされるんですね?
そうなんです。今回の省令改正案が通れば、在留資格の「認定」「変更」「更新」「永住」すべてで、課税・納税・社保がセットで提出義務化されます。申請者だけでなく、扶養者や費用支弁者も含まれるんですよ。
横山先生
横山先生
では1つ、よく誤解されがちなケースを紹介しましょう。
それは「経営・管理」ビザで日本にいる外国人の方です。
横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
会社経営してる社長さんですよね?
そうです。日本に会社を設立して「経営・管理」ビザを取っている外国人の中には、仲介エージェントから教えられていなかったり、あえてに適当にごまかされたりして、小さい会社だったりすることもあり、社会保険未加入というケースも多いんです。
横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
でも、従業員を雇ってないなら、入らなくていいんじゃ?
そこがよくある勘違いなんですが、法人の場合、社長1人でも「社会保険加入義務」があるんです!
横山先生
横山先生

社会保険加入が義務となる条件(法律上):

  • 法人であること(株式会社、合同会社など)

  • 役員報酬が支払われていること

つまり、「従業員がいないから社保は不要」ではなく、一人社長でも、会社を作った瞬間から社保加入は必須です。報酬がゼロなら別ですが、「経営・管理」ビザを持っている以上、無報酬という設定はありえないはずです。
横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
じゃあ、「社長だけど、とりあえず国民健康保険に入ってればいいや」じゃダメなんですか?
それもアウトです。そもそも現時点でも違法状態なのですが、現状は国保に入っていた人も多いです。それも、先ほど言ったように、ビザ更新では事実上「チェック無し」だったからです。しかし、今回の改正案が通れば、国民健康保険に加入していても、社会保険未加入のままでは「経営・管理」ビザの更新すら厳しくなるかもしれません。
横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
社長だから逃げられないってことですね…。
まさにそのとおり。「会社の責任=あなたの責任」となる立場なので、社保未加入は、言い逃れできない本人の責任になります。

だから今後は、

  • 会社設立時に社保加入も同時に行うこと
  • 社保に入っていない理由があるなら、その事情をきちんと書面で説明する(例えば、別の会社の社保に入っているなど)

など、経営者としての自覚がますます重要になるわけです。

横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
先生、もしこれが通ったら、ちゃんと税金を払ってない人とか、社会保険に入ってない人は、もう日本にいられなくなるってことですね!もうすぐ選挙なので、候補者のYouTubeをよく見てますが、今は所得税よりも、社会保険料の方がずっと高額で、日本人を苦しめているって言ってましたよ! 日本で社長になる以上、外国人ならなおさらルールを守ってほしいですもんね!
そうですね。「ルールを守ってる外国人だけがビザを得られる」という方向にシフトしていくということになります。それはそれで当然あるべき姿ですが、でも、そこにはちょっと注意すべき現実があります。
横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
えっ、どういうことですか?ルール違反の外国人には厳しい対応をしていくことは良いことだと思いますが。。。
ところがそう簡単な話ではないんです。外国人の中には「社会保険に入りたくても入れない」という人もいるんです。

例えば、ある外国人が会社に就職したとして、本来なら厚生年金・健康保険などの社会保険に加入させる義務があるのに、事情をよく知らない外国人をいいことに、うちには社会保険はないと言って、意図的に社保加入を拒む日本の会社も少なくないです。そういった外国人は、会社に逆らうこともできず、仕方なく、市町村の国民健康保険に入ったりしています。

横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
それ、外国人が悪いんじゃなくて、会社がズルしてるってことじゃないですか!
その通りです。最初の例は、社長の話だったので、簡単なんですが、「制度を守っていないのは本人か会社か」まで見ずに、単に保険未加入というだけで不許可にするのは危ういんです。本人は悪くないのに、そして、本人にはどうすることでもできないのに、ビザだけは取り消されたり、更新できなかったりするおそれがある。もちろん、そういったルール違反している会社は、外国人か、日本人かに無関係です。
横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
それって、不公平じゃないですか?
だからこそ、今回の省令改正案には、実務の現実を踏まえた丁寧な制度設計が求められているんです。

例えば:

• 本人に責任がない場合の救済方法を講じる。

• 雇用主による社保逃れへの指導強化の策を講じる。

などがなされないと、現場とのギャップで混乱や不公平を生む可能性があります。

特に、これまで以上に注意が必要なのは、言われた資料だけを提出していて説明不足といった申請では、通らないことが予想されます。提出できない資料がある場合も想定して、どのような書類で代替していくかも明示しなければならない。

横山先生
横山先生
教えてくん
教えてくん
つまり、今こそ意見を出すときなんですね!
そうです。この省令案は現在パブリックコメント募集中です。制度の趣旨には賛同しつつも、「現実に即した制度運用ができるように」、国民や実務者の声が必要なんです。
横山先生
横山先生

パブリックコメントの出し方は、下記のページから。

e-Gov専用ページ

教えてくん
教えてくん
なるほど…!外国人本人だけじゃなく、日本社会全体の制度のあり方が問われてるんですね。僕も意見出してみます!